この動画について
第二部では、『もしも不動産屋が入居者のために食堂を開いたら…』というテーマで、神奈川県の管理会社有限会社東郊住宅社 代表取締役 池田峰氏にご登壇いただき、同社で運営している入居者のための食堂「トーコーキッチン」の取り組みについてご紹介いただきました。
これまで配布資料もダウンロードいただけましたが、2025年9月より参加者限定の特典としてご用意する形に変更となりました。ご了承いただけますと幸いです。

第94回北海道大家塾は、9月27日(土)に札幌駅近くの北農健保会館で開催され、会場セミナーに61名、You Tube ライブ(限定公開)同時配信によるWEBセミナーには47名、計108名の方にご参加いただきました。
第一部はCOSOJI株式会社 執行役員 ・エバンジェリスト宮川沙織氏に『「管理会社はつらいよ!?」⼤家さん事件簿で学ぶ、愛され⼤家さんのススメ 〜現場のリアルとAIで変わるこれからの管理〜』というテーマでご登壇いただき、「大家さん事件簿」形式で、管理会社の”現場のリアル”をご紹介いただきました。
第二部では、『もしも不動産屋が入居者のために食堂を開いたら…』というテーマで、神奈川県の管理会社有限会社東郊住宅社 代表取締役 池田峰氏にご登壇いただき、同社で運営している入居者のための食堂「トーコーキッチン」の取り組みについてご紹介いただきました。
サポートパートナーの企業紹介では、人気NO1の都市ガス物件ならおまかせの北海道ガス株式会社様にご案内をしていただきました。
また、サポートパートナーブースにて、参加者様からの質問等にお答えいただきました。

【第二部】講師紹介
もしも不動産やが入居者のために食堂を開いたら…
第二部では、神奈川県相模原市の淵野辺という地域で管理会社を営まれている有限会社東郊住宅社 代表取締役 池田 峰(いけだ みね)氏にご登壇いただき、
「もしも不動産会社が入居者のために食堂を開いたら…」
というテーマで淵野辺という土地でのトポフィリア(アメリカの地理学者の造語でトポス(場所)+フィリア(愛情)をかけ合わせた言葉で場所と人との情緒的なつながりを意味しています)な取り組みについてお話しいただきました。
トーコーキッチンとは、池田さんが経営されている不動産管理会社である有限会社東郊住宅社で管理している物件に住む方のための食堂です。
街の中にひとつ食堂があって、その周辺にある東郊住宅社の管理物件1,800戸の様々な物件から人が来るという仕組みです。
まず大前提として、トーコーキッチンのお話は、「食堂」という突飛なものがあって、形として存在しているゆえに、どうしてもそこに寄ってしまって「自分ではできないなぁ」とか「札幌ではこれは無理だな」とか、様々な考えを持たれるかと思いますが、池田さんは「重要なのは食堂であることではなく、そのスキーム(特定の目的を達成するために設計されたプラン、計画)である」とおっしゃっておりました。
【淵野辺ってどんな街?】
神奈川県相模原市にある淵野辺という街は、JR横浜線の沿線にあるひとつの駅で、元々乗り換えのターミナル駅になっている駅でもなく非常にローカルな小さな駅です。
ただ、そこには青山学院大学、麻布大学、桜美林大学の3つの有名大学のキャンパスがあり、全国各地から大学生が親元を離れて住む街でもあります。
【東郊住宅者の当時の課題】
①男子学生の親御さんによる食事付き学生マンションに対する需要の高まり
②空室増加による家賃下落傾向への対策
③物件属性やオーナーに依存せず、1,800室すべての資産価値を一気にアップさせる裏技
②に関しては、家賃を上げるためにオーナー様が物件の設備に投資したり、オーナー様の努力によって客付けをして、そこに対し管理会社として収益をいただくというスタイルは池田さんの価値観には合わなかったと仰っておりました。
自分たちの企業努力でオーナー様がたにも自分の会社に預けてくれている意味というものを形作りたいと思ったということです。
③に関しては、答えは簡単で「企業努力」である、と池田さんは仰ります。
しかしながら、企業努力は伝えるのが難しいとも。
サービスは受ける立場にならないと対価を見出だせないもので、例えば何かあった時には24時間対応しますよって言ってても、実際に入居者様が真夜中の対応が必要な事態にならない限りは企業努力としては伝わらないものであると。
そのようなことを考えながら過ごしていた時に、忘れもしない2014年の忘年会でふと思いついたのが「食堂」だったそうです。
【トーコーキッチンは「食」を媒介にした自社媒体】
池田さんがこの食堂で求めたものは「コミュニケーション」です。
コミュニティとして囲い込みをしようとしているわけではなく、純粋にコミュニケーションを求めて、そのコミュニケーションを取るのに最もハードルが低いのが「食」であったと話されておりました。
トーコーキッチンの鍵を持っている人は、約3,000人の入居者様、200人のオーナー様、取引のある業者様(内装屋さんなど)で、集まる方々はそこで新たな交流を生んだり、普段は無愛想なオーナー様が食を通して笑顔になられたりなどコミュニケーションから得られる効果をいくつもご紹介いただきました。
実際に、トーコーキッチンを始めてからは入居者様の満足度が上がり、営業時間外の対応要請が8分の1まで減ったということで、コミュニケーションを通して知り合うことの価値は非常に大きいということでした。
【淵野辺と東郊住宅社の今】
元々は淵野辺近郊の3大学からの反響を狙ってのスタートでしたが、トーコーキッチンを利用したいばかりにどんどん最寄り駅ではない大学の学生まで淵野辺に住むようになっているようです。最近では、まだ受験もしていない親御さんから「再来年入居の予約はできますか?」という問い合わせまで来ているようです。
また、家賃の設定に関しても元々相場より高めなのに家賃交渉はほぼなく、食事の提供というところに価値を見出していただいているそうです。
また、近年では高齢になった親御さんを呼び寄せるお子さん世代も多くなり、大学生の親が子供の食を心配するように、高齢者の子供もも親の食を心配しています。
そういった方たちにもトーコーキッチンがある淵野辺は人気が高まっているそうです。
東郊住宅社では、70歳以上の単身者で近所に身寄りがいない方には月1回はお電話をするようにしているそうで、元々つながりのあった高齢者の入居者様を対象に2020年9月からはトーコーキッチンでのスキームを利用して新たなサービス展開を始められたそうです。
それは、ゴーヨーキーキー(ご用聞き)というサービス名称で買い物代行や草刈り、時にはおしゃべりなどの暮らしのサポートをするというものだそうです。
管理会社としても、お金をいただいてお手伝いをしながら高齢者の住んでいらっしゃる部屋に入れるというのは状況を確認するのにも役立っており、メリットが非常に大きいと仰っておりました。
【淵野辺と東郊住宅社のこれから】
現在1,800戸の物件管理をしていますが、2,000戸を目標としており、これ以上、場所を変えて増やすということも考えてらっしゃらないということで、その2,000戸を今と同じ労力で仲間たちの取り分であったり、提供するサービスの質を保っていきたいと仰っておりました。
「不動産業はエンタメ業であり、そこでの暮らしを楽しくすることに携われる、そこで暮らす365日24時間続くものに対してのアプローチができる稀有な仕事です。こちらが心の琴線にふれるサービスをすると、こちらの琴線にふれるリアクションが返ってくるものです。」
とにこにこ池田さんらしい笑顔でお話しいただきました。
場所と人との情緒的なつながりが造成されてトポフィリアな環境になっていくと、オーナー様・入居者様・管理会社がフラットな関係で楽しくそれぞれの持ち場で楽しく暮らしを営んでいけるのではないか?ということで、それがまた池田さんの希望する暮らしであるということで、セミナーは締めくくられました。

塾長 原田の感想
池田さんのお話はとても刺激的でした。
成功事例として語られましたが、実際には裏で多くの苦労があったプロジェクトだそうです。
きっかけは、自社管理物件に入っていた飲食店の経営不振から事業を引き取り、食堂として再スタートさせたこと。
ニュージーランドから帰国後の新しい挑戦のタイミングでもあったそうです。
内装費を抑えつつも、一定の初期投資は必要でしたが、「小さく始めて失敗しても大きなダメージを負わない範囲で」と戦略的に取り組まれたとのことでした。
デザイン会社での勤務やニュージーランドでの経営経験を持つ池田さんだからこそ、ビジネスデザインやファン作りに長けており、当初想定した通りの効果を上げているそうです。
こうした取り組みは他の管理会社でも応用可能ですし、個人オーナーであっても「入居者に感謝を伝える仕掛け」を考えることは、長期入居に繋がる大きな戦略になると感じました。
例えば、溝口の越水さんが地域の野菜を収穫したときに入居者へ配ったり、ボジョレー・ヌーボー解禁日にワインを置いておく取り組み。こうした工夫も入居者に「気遣ってもらっている」という感覚を与える有効な仕掛けになると思います。
私自身の物件でも、例えば事務所の上にある賃貸部分に野菜や飲み物を置くなど、これまでやっていなかった工夫をしてみることも有効だと感じました。
今回のセミナーを通じ、ぜひ取り組んでいこうと思えました。
開催記録
●日 時:2025年9月27日(土) 13:30-18:00
●参加人数: 108名(会場参加:61名、WEB参加:47名)