
第92回北海道大家塾は、5月31日(土)に札幌駅近くの北農健保会館で開催され、会場セミナーに71名、You Tube ライブ(限定公開)同時配信によるWEBセミナーには52名、計123名の方にご参加いただきました。
第一部は、講師に株式会社キャム 代表取締役 越水隆裕氏をお迎えし、『住むだけの場所はもういらない。暮らしを提案する大家業』というテーマで、部屋のスペックではなく、住み心地やコミュニケーションを強みとし、 常に満室に近い状況を維持している越水流「賃貸経営アイディア」を共有していただきました。
第二部では、『地域管理会社の成長戦略 「街の価値向上」を目指す仕事を行う理由』というテーマで、株式会社エヌアセットホールディングス 代表取締役宮川 恒雄氏にご登壇いただきました。
住民が「近所にあったらいいのに」と感じている施設を敏感に把握し、保育園やレンタルスペースの運営をするなど地域コミュニティと深く関わり、認知度を高めることによって生まれる地域管理会社の成長戦略などについてお話いただきました。
セミナーの後は越水さんと宮川さんに、1時間ほどトークセッションのお時間をいただき、
お二人の出会いや、まちづくりの活動についてお話していただきました。
サポートパートナーの企業紹介では、新しく北海道大家塾 サポートパートナーに加入いただいた株式会社ミラタップさんにご挨拶をしていただいた後に、ガス会社北海道ガス株式会社さん、宅配ロッカーの株式会社フルタイムシステムさんにご案内をしていただきました。
また、サポートパートナーブースにて、参加者様からの質問等にお答えいただきました。

【第一部】講師紹介

住むだけの場所はもういらない。暮らしを提案する大家業
第一部は、3年前(第74回北海道大家塾)以来2度目のご登壇になられる株式会社キャムの代表取締役 越水隆裕(こしみず たかひろ)氏にお越しいただきました。
元々、ネガティブで人とコミュニケーションを取ることも好きではなかったと仰る越水さん。
現在のポジティブでエネルギッシュに「人が喜ぶ、主役になれる家」を提供しようと豊かなアイデアと発想で大家を生業としているお姿からはとても想像できません。
アパレル業界での活躍、海外でのサバイバルかつグローバルな経験が独自の価値観を生み出し築古の物件でさえも、新築物件以上の家賃設定で満室にできるほどの差別化戦略に繋がっています。
戦略1:派手で奇抜な内装
「こんな柄、誰もやらないでしょ!」というぐらいの派手な色使いの内装であっても「唯一無二」になるならそれでいい、というのが越水さんの価値観です。
差別化して選ばれるお部屋にするために万人受けを狙わず、流行を意識しすぎずに内装を決めます。そういった個性的な物件に魅力を感じてくれるお客様がいれば大事に永く住んでいただけます。
また、コラボや共作の素晴らしさにも触れられており、時には女性の感覚を取り入れながら、自分のセンスにだけを頼るのではなく、他者の感覚を取り入れながら内装をされることで、思ってもみなかった良いアイデアが生まれたりするのだそうです。
戦略2:物件のステージング
内見のときに、できるだけ長い時間その部屋にいていただけるように、ステージングにもこだわられています。
その目的は、デコレーションをして飾りつけをするということではなく、あくまでも来た方を主役にしてあげて、もっと楽しませてあげることだと、はっきりとした目的意識を定義していただきました。
【具体例】
①飴などを置いておく
②築年数を「築33年」ではなく「Anniversary33」とおしゃれに演出
③部屋に大家さんからの手紙とティファールを置いておく
④壁の寸法や、カーテンレールから床までの寸法などを書いた紙を置いておく
戦略3:住民とのコミュニケーションを積極的にする
コミュニケーションの意義を強く説かれる越水さんでしたが、そのアイデアには越水さんらしいアイデアと演出が満載でした。
【具体例】
①入居が決まったらおしゃれなキーホルダーに鍵をつけてお渡しする。
②入居したその日に偶然を装って挨拶に行く。
③エントランスで季節ごとに地元野菜を差し上げたりワインを楽しんでいただく。
こうした入居者様への細やかなお気遣いと演出が、結果的にトラブルを回避し、滞納やクレームを減らすことにも繋がっているのだそう。
戦略4:退去立会いから次の入居申込までのスピードを上げる
退去立会いから次の入居者の申込までを1ヶ月以内目標にして、敷金の精算がないようにする、退去立会いと同時にリフォーム開始…など、のんびりせずにできることをどんどん進めていくことを意識されているそうです。
戦略5:街ごとハッピーにする
溝の口という街全体をハッピーにすることが入居者様方の「素敵な生活」に繋がっていく、まちづくりまでを含めて賃貸経営であり、地元で育った地主系大家にできる街に対するひとつの恩返しでもあると考えられて、そのための活動にもご尽力されております。
その具体的な内容については、宮川氏とのトークセッションでたくさんの活動やアイデアを
教えていただきました。
-越水さんからのメッセージ-
「大家さん自身がコントロールする賃貸経営をしましょう!」
管理会社に全部任せっきりにせず、リフォームするときも自分で決めましょう。
イノベーションを起こしていくことが重要であり、同じ場所にとどまらず、常に動き、常に変化していくことが非常に大事です!
越水さんのご講演からは、「物件の差別化が入居者の心をつかむ最大のカギ」であり、「地域や入居者とのつながりが、賃貸経営の安定と成長につながる」ということを学びました。
カラーリングや心を動かすステージング、入居者との丁寧なコミュニケーション、そして街づくりへの貢献までの工夫が、結果として物件の価値や入居率に直結するということを実感する内容でした。

塾長 原田の感想
越水さんが行っている神奈川県川崎市溝の口での街を盛り上げる活動のお話も非常に面白かったのですが、実は彼が賃貸経営において「満室経営」を進めるために取り組んでいる内容が、とても参考になりました。
冒頭25分という長めの自己紹介もありましたが(笑)、越水さんが非常にサービス精神にあふれた方であることがよく伝わってきました。
越水さんの言葉にあった「建物は商品であり、空室は在庫である」という考え方の中でも、「素敵な生活を提供する」という視点を持ち、それを商品として魅せることの重要性は非常に大切ですが、つい見落としがちです。
カラーリングやリフォームに目を奪われがちですが、空室時にステージングとしてティファールを置いたり、オーナーからの手紙やおしゃれなお菓子を置いたりする工夫が内見時に目を引き、滞在時間を長くし、決定率を上げる効果があります。
これらを越水さんは基本から徹底されていました。
不動産実務検定でも、こうした内見時の工夫や決定率を上げる方法を学びますが、実際に行動に移すのはなかなか難しいものです。
私自身も、事務所上の賃貸が空いたときにステージングを行っていませんでした。
すぐに決まってしまうという油断もありましたが、今回のセミナーを受けて、今後は徹底してやっていこうと反省しました。
皆さんも、ぜひ参考にしながら取り組んでいただければと思います。
【第二部】講師紹介
地域管理会社の成長戦略
「街の価値向上」を目指す仕事を行う理由
第二部は、神奈川県川崎市の溝ノ口駅エリアを中核の商圏とする不動産会社である株式会社エヌアセットホールディングス 代表取締役 宮川恒雄(みやがわ つねお)氏にご登壇いただきました。
宮川さんは学生時代からビジネスへの関心が強く、貿易・金融などを学べるイメージから大手の総合商社を選び就職なさったそうですが、配属先は期待していた貿易でもなく、金融でもなく、コテコテの不動産部門だったそうです。
分譲マンションの販売等を扱い、手法としても駅前の不動産屋さんをまわって土地情報をもらったりなど、現場至上の叩き上げでその手腕を磨かれていったそうです。
そのような環境の中で、宮川さんにとってメンターとなるような上司との出会いがあり、最終的にはその方が独立して立ち上げた会社にご自身も転身されました。
10名程度の小さな会社の社員としてスタートしたその会社ですが、短期間で急成長し、ジャスダック、東証二部に上場させるほどまでになったものの、2008年リーマンショックの時期に破綻してしまうまでを経験されたそうです。
当時は、その破綻した企業の子会社だった不動産の仲介と管理の会社を売却できるようにするのが宮川さんに託されたミッションだったそうです。
そしていよいよ準備が整い、入札に出されたその会社ですが、なんとご自身で資金を集めて落札なさり、ご自身の会社として再始動させたのです。
ここからが、エヌアセットホールディングスが信頼と安心を取り戻し、地元で愛され活躍していく会社になっていくための歴史の幕開けです。
①なぜ地域密着の会社で街の価値を高める活動をやりたいと思ったのか
破綻した企業の子会社というマイナスイメージが定着した会社のイメージを払拭するために、
最初から、どうやって他の管理会社と「差別化する」のかというところに照準を定めてらっしゃいました。
ところが、賃貸の管理会社が他の管理会社と差別化するのは非常に難しいものです。
当初は、溝の口という地域柄、海外駐在員が出ていったり戻ってきたりすることが多い地域であることに着目し、海外に特化したらどうかとベトナムやタイにも進出されましたが、大きく差別化できるほどの展開にはならなかったそうです。
そうこうしているうちに宮川さんに新しい価値観を生じさせてくれるような良書に出会い、
街の価値を高める活動こそが、差別化にもなるし、街のためになるのだということを確信されます。
「街の価値を高める=そこに住みたい人、住み続けたい人が増える
そのためにできることをする、そしてそれこそが、賃貸管理会社の本質だと思っている。」
という現在の宮川さんの非常に情熱的なまちづくりへの価値観の土台が出来上がったそうです。
②管理会社としての戦略
短期、長期、中長期での目標についてもセミナーの中でお話いただきました。
【短期目標】管理シェア10%
ランチェスター戦略などでは26%が通説ではあるけれど、管理の業界であれば10%超えてくると認知度が急激に上がってくるとのお考えで、まずは地元で10%のシェアを取ること。
【長期目標】既存事業以外での顧客接点の回数と時間の拡大、商品サービスの多様化
多くの不動産屋さんは、契約するとき、解約するとき、クレームが発生したときにしか入居者様との接点がないものですが、リピートや紹介を増やすために不動産以外の商品やサービスを展開して、いかにお客様に会う回数と時間を増やしていくのか。
【中長期目標】共感者を増やす、ブランディングで顧客インフラ(顧客予備軍)を増やす
地域密着の会社はエリアを絞る以上、信頼や共感を得られないと事業が伸びないと分析なさる宮川さん。そのための活動として、コワーキングスペースの運営、保育園事業、街のゴミ拾い活動、少年野球大会、小学校授業などの営利・非営利事業の推進に力を入れておられ、企業としての価値そのものを上昇させていく。
-宮川さんからのメッセージ-
1番大事なことは、不動産に携わる人間として、管理会社、仲介会社、大家さんたちがそれぞれはひとりではできないけれど、何人かで集まってタッグを組んで、住みたい街、住み続けたい街作りを目指していくことだと思います。
先日テレビ東京の番組で「本当に!住んでよかった街ランキングBEST100」という番組があって、溝の口が第7位まで上がってきました。これを1位にするのが僕達の目標です!
地域密着の賃貸管理会社として、「街の価値を高める活動」こそが差別化と信頼構築の鍵であることを学びました。管理業務を超えた地域貢献が、顧客との接点を増やし、住みたい街づくりにつながっていくという熱い想いが印象的でした。

塾長 原田の感想
エヌアセットホールディングスは、全国的にも地域密着型管理会社の成功事例として知られています。
前職から独立し、エヌアセットとして2009年にスタートした当初の管理戸数は1000戸。
それが現在では、約5000戸にまで増加しています。
この成長の背景には、地域に特化し、事業展開を絞った戦略があります。
また、その中で出会った最大のパートナーが、もしかしたら越水さんだったのかもしれません。
街の価値を高める営利事業として、スモールオフィス事業・シェアサイクル設置事業・シェアハウス事業・保育事業・レンタルスペース事業など、様々な取り組みをご紹介いただきました。
なかでも「ノクチカプロジェクト」については、コッシーと石井さんとの共同出資により
立ち上げた会社とのことでした。
今回この北海道大家塾を開催するにあたり、こういった管理会社が札幌に増えることで、札幌市の賃貸市場に新たな発信が生まれるのではないかと感じました。
札幌以外の地方都市からも管理会社の方々が来てくださっていましたが、それぞれの地域を盛り上げる意志を持った管理会社が自立していくのであれば、大家にとっても非常に心強いパートナーになるでしょう。
多くの人が協力し、支えてくれるはずです。
【トークセッション】
セミナーの後は越水さんと宮川さんに、1時間ほどトークセッションのお時間をいただき、
お二人の出会いや、まちづくりの活動についてお話していただきました。
2015年に、宮川さんの従業員の方から紹介されて出会ったお二人。
すぐに意気投合し、飲食関係や他の業種のそれぞれのお知り合いに声をかけ、8名の社長たちが集まり「知っトコ!たかつ」というチームを立ち上げます。
このチームが現在でも溝の口の街を盛り上げる様々な活動の基盤となってらっしゃるそうです。
【「知っトコ!たかつ」で手掛けているプロジェクト2選】
元々は閉院した古い病院だった建物をおしゃれな古民家風に改装し、レンタルスペースとして活用しています。
通常、コワーキングスペースは利益が出にくいと言われており、入口にスタッフを常駐すると、更にコストがかかりますが、nokuticaはきちんと利益が出るように戦略的に経営されています。入口には月3万円ぐらいで、小さな喫茶店を出してもらっており、その店主がコミュニケーターとしての役割も果たしてくれているそうです。
この建物の構成としてはコワーキングスペースとレンタルスペース、小さなシェアオフィスが5室という仕様になっており、それぞれの収益を合わせると、きちんと利益が出るとのこと。
大家さんたちとスタートして、地元の企業さんにも企画に参加してもらって関係人口を増やして取り組みながら、街の人たちみんなでやろう!
というノリで始められたところも非常に良かったと振り返られました。
越水さんが中心となって手掛けている街のお掃除をする活動が、非常に良い宣伝活動にもなっています。
また、自分たちの宣伝ばかりではなく新店舗の方々がやってきて、自由に宣伝活動ができる場としても活用していただいているのだそうです。
「掃除は仲間を作りやすい!」
「良いことをしてるんだって気持ちでは絶対やらないでほしい!」
など、越水さんらしいアドバイスも非常に印象的でした。

塾長 原田の感想
最後に、宮川社長と越水さんとの対談セッションという初の試みも行われました。
お二人の関係性がとても良くスムーズにセッションが進み、ノクチカプロジェクトについてや、これまでの取り組みがよく伝わる内容でした。
私自身も、神奈川に行くたびに溝の口に泊まらせていただき、いろいろとご案内いただいております。
皆さんもこのご縁をきっかけに、ぜひ越水さんや宮川社長に連絡を取り、現地を見学していただくと良いと思います。
実際、すでに行動を起こし、アポを取って見学の約束をしたという方も出てきています。
皆さん次第でこの機会を活かすことができます。
これからも共に頑張っていきましょう。
開催記録
●日 時:2025年5月31(土) 13:30-18:00
●参加人数: 123名(会場参加:71名、WEB参加:52名)
懇親会の様子(会場:ネストホテル札幌駅前)


今回の北海道大家塾へのご感想をお聞かせください。
たくさんの参加者の声を頂き、ありがとうございます。
☆一部のみ掲載させて頂きました☆
●宮川さんはベンチャー立ち上げから上場し、経営破綻してからの再帰というなかなか珍しい経歴を持ち、それだけのご苦労をされているのになお経営の道を選択する胆力に驚かされました。また、苦労されているからこそ、お客様には一生寄り添ったサービス提供を行いたいという意図が強く感じられ、不動産会社自らその地域の価値を上げていく姿勢もとても勉強になりました。
美唄市 伊東侑真様
●越水講師の「大家業楽しんでますか?」という問い、なぜ楽しいのか、何がやりがいなのか、改めてお話しいただき自分の大家業を見つめ直すきっかけになりました。
札幌市 熊谷 公寛 様
●越水さんのお話は2年前にもお聞きして、今回2回目でしたが、何度お聞きしてもとても参考になる話で空室対策に取り組む姿勢といい、改めて元気をいただきました。
部屋の中に木馬を置こうと思います。
旭川市 梅野 牧 様
●ペットの大型犬の受け入れの考え方が面白かったです。
札幌市 M・S 様
●ポートベロマーケットは行ったことがありますが、あの場所で英語も話せないのにお店を出した越水さんはタダ者ではないと思いました。
札幌市 I・H 様
●アパレル業界という異業種からの不動産賃貸管理業を営むのにあたり、内見という部分においてアパレル業界で培ったカラーリングとステージングを採用し、素敵な生活を提供するという差別化の手法が印象的でした。
匿名希望